今回は「どうして船は水に浮かぶの?」という疑問について、わかりやすくお話しします。
海に浮かぶ大きな船を見たことがありますか?
こんな、重たい物を運んだ巨大な船がどうして沈まずに浮いているのか、不思議に思ったことがあるかもしれません。
実は、船が浮かぶのには物理〔自然現象や物質の性質を理解する科学分野〕の法則が関係しているのです。
1. アルキメデスの原理
船が浮かぶ理由の鍵は『アルキメデスの原理』にあります。
古代ギリシャの数学者であるアルキメデスが発見したのは、
「液体の中にある物体には、その物体が押しのけた液体の重さに等しい浮力(ふりょく)が働く」
ということです。
【浮力(ふりょく)】とは?
浮力とは、液体や気体の中にある物体が受ける上向きの力のことです。この力は、物体が押しのけた液体や気体の重さと同じになります。
例えば、お風呂に入った時に水があふれたとします。それは、風呂に入った人の体が水を押しのけたためです。押しのけた水の重さと同じだけの浮力がその人の体に働くので、体が水中で少し浮くように感じます。
つまり、船が水に浮かぶためには、船が押しのける水の重さ(浮力)が、船自体の重さと同じかそれ以上である必要があるといえます。
2. 船の設計と浮力
〔1600年代 船の断面図〕
船が浮かぶためには形状がとても重要となってきます。
船は大きな空間を持つ形で作られています。それにより、船全体の平均密度(体積あたりの質量)が水よりも小さくなっています。
例えば、
鉄の塊を水に投げ込むと沈んでしまいます。しかし、鉄を薄く広げて船の形にすると、その船は大きな空気の空間を持つため、全体の密度が下がります。
その結果、船が押しのける水の量が増え、船が浮かぶための十分な浮力が生じます。
船の安定性を保つ役割『バラスト水』とは?
バラスト水は、船の安定性を保つために使用される水です。船の底部にあるタンクに取り込まれ、船の重心を下げて安定性を向上させます。
それにより、船は波や風の影響を受けにくくなり、安全な航行が可能になります。また、船が適切な喫水(きっすい)を維持するためにもバラスト水は重要です。
喫水(きっすい)とは、船が水中に沈む深さのことで、適切な喫水を保つことで船の航行性能が向上し、操縦が安定します。
特に、貨物を積んでいない空船の状態では、船が非常に軽くなるため、バラスト水を使用して重さを加え、安定性を確保します。
港で貨物を積む際や下ろす際にも、バラスト水を調整することで、船のバランスを保ち、船が均等に浮かぶことで貨物の積み下ろし作業が安全に行うことができます。
浮かぶ船の条件
以上のことを踏まえると、船が水に浮かぶためには以下の条件をクリアする必要があると言えます。
船の重さ
船の総重量が水に押しのけられた水の重さと同じか、それ以下であること(アルキメデスの原理)。
船が浮くためには、この浮力が船の重さとバランスを取らなければなりません。
船の形状(設計)
船の素材や内部の空間が重要である。
船の形が水を多く押しのけるように設計されていることにより、船が受ける浮力が増えます。そして平均密度が水の密度より低い場合に船は浮かびます。
逆に、船が密度の高い素材だけで作られていると、浮かぶための十分な浮力を得ることができず、沈んでしまいます。
例えば、
平らな底と広い面積を持つ船体は、水をたくさん押しのけることができ十分な浮力が得られます。
お風呂に入ったときに体が完全に浮かない理由
今までのお話を踏まえたうえで…
それでは、どうしてお風呂で人は浮かばないのでしょうか…?
浮力と体重のバランス
浮力の大きさは、押しのけた水の重さに等しいというお話はしましが、浮力がそのお風呂に入った人のの体重と同じであれば完全に浮かびます。
しかし、お風呂では以下のような理由で完全に浮くことができません。
①【押しのけた水より体重の方が重い】
水の密度が約1g/cm³であるため、体重がその押しのけた水の重さより大きい場合、完全には浮かびません。
ちなみに、同じ体積で考えた場合、筋肉は脂肪より約20%重くなります。
②【体の形と浮きやすさ】
体の形や密度が均一でないため、水中での浮力のバランスが取りにくいことがいえます。人間の体は筋肉、骨、脂肪、肺の空気などさまざまな要素から成り、それぞれの密度が異なります。そのため体の構成要素によって浮く部分と沈む部分が出てきます。
例えば、
筋肉と骨は密度が高く沈みやすいが、脂肪は密度が低く浮きやすくなります。その他、肺の空気は浮力を増加させることもあります。
③【水深と体の位置】
浅い水深では体全体が水中に浸かりにくいため、十分な浮力が得られません。深い水に入れば、より多くの水を押しのけて浮力が大きくなります。
人を水の中で浮かばせる裏技は…
〔死海で浮く人〕
浮力を増加させる
人が水に浮かびやすくするためには…
- 体脂肪の割合:脂肪を多くする。
- 肺に空気を含む:息を大きく吸い込むと浮力が増加します。
- 海水(塩分):海水は塩分を含むため密度が高く、浮力が大きくなるので、海では浮きやすくなります。
一般的に、体の密度が水の密度よりも低ければ浮くことができます。体重が何キロだから浮くという具体的な基準は存在しませんが、体の密度が1g/cm³未満であれば、浮力を受けて浮くことが可能です。
『死海』では、なぜ体が浮く…?
死海で体が浮くのは、主にその水の塩分濃度が非常に高いためです。通常の海水の塩分濃度は約3.5%ですが、死海の塩分濃度は約30%から35%にも達します。なんと、海水よりも約8〜10倍もの高い濃度です。
この高濃度の塩分によって、死海の水の密度が非常に高くなります。そのため、体が水に浸かると浮力が増し、体が浮きやすくなります。
また、死海の水にはマグネシウムやカルシウムなどのミネラルも豊富に含まれています。これらのミネラルも水の密度を高め、体が浮きやすくする一因となります。
まとめ
船が水に浮かぶのは、アルキメデスの原理に基づいて、押しのけた水の重さに等しい浮力が働くからです。
船の設計や内部の空間も重要な役割を果たしており、これらの要素が組み合わさって、巨大な船が水に浮かぶことができていたのです。